◆予想し得ない「再会」◆

　くたびれて帰りの電車に乗ると、別の会社に移った元同僚が目の前に座っている。とても嫌なやつで同じ会社に居たときもほとんど口をきかなかった。当然、会釈もせず、別な場所に移動した。
　彼がこの路線で通勤しているのは知っていたし、偶然ではあるが会ってびっくりするほどのことではない。いつかは会う運命だったのだろう。

　このような「ばったり会う」レベルを超えた、予想もしなかったような「再会」もある。

　一つは中学時代。母の実家の駅で、夏休みの訪問から帰るため電車に乗り込みタラップで別れを惜しみながらさよならの挨拶をしているちょうどその時、別なホームの改札を抜けていく父方の伯父を見かけた。
　伯父の住む町からは電車に乗っても3時間は離れている。この町になんの用もないはずだ。いくら考えてもなぜ伯父がいたのか分からない。その上、私に気付いていたのに見つからないように通り過ぎて行ったような気がした。
　数年後、何回か伯父に会う機会はあったが、聞いてはいけないことのような気がし、そこに居た理由を訊ねることはできなかった。伯父は去年他界しそれは永遠の謎になった。

　二つ目は、大学2年のとき。合コンに出かけるため、中野駅から中央線に乗り空いている席に座った。ふと気付いた。目の前に座っているのは、小学校時代とても仲良かった4つ下の従姉妹とそこの叔母。しかしおかしい。家庭の事情で二人は一緒には暮らしていないはずだ。
　我が家とも10年くらい音信不通に近く会っていない。しかしこの二人が一緒にいるはずはない、すごく似た人たちなのだろうか、、、などと思っているうちに、新宿駅で二人は降りる。私も乗り換えで降りたのだが、話しかけようかと悩んでいるうちに見失った。
　この二人にはさらに10年後、叔父の葬式の際に会えた。その時のことを聞くと、確かに本人たちだったようだ。

　三つ目は、大学3年のとき。友と酒を飲むために高円寺駅で待ち合わせ改札を出ると、そこには中学一年生のときに好きだった娘が立っている！ 「そんなはずはない。でも絶対本人だ。いや違うかも、、、。」気が動転し頭がくらくらした。
　奥手の私は中学校時代、ろくに話もできなかった。当然「好きだ」と言うことはできなかった。それから9年が経ち、故郷の街からは1000kmも離れている。本当にその娘の9年後なのか、そうだとしても相手が私を覚えていないのではという不安、待ち合わせた友人の手前恥ずかしかったこと。結局、この時も話しかけることはできなかった。

　考えもしない場所で、想像もしない人々と偶然「再会」した、、、というより、「見かけた」ものだ。そのすべてで、あまりの意外なことに動転してしまった。

　後の二つは、今でも後悔している。
　従姉妹と叔母のところとは小学校時代とても行き来が多かった。仲も良く、兄妹のような感じであった。その後、この一家が海外転勤になったり、帰国後家庭の事情で疎遠になったりにしたが、ずっと気に掛けていた。あそこで話しかけていれば、20年近いお互い不在による少々疎遠な関係にならずに済んだのではないか。
　そして高円寺で見かけた同級生は、とても憧れていた人だった。別に次なる展開などなくて構わなかったし、間違えでもよかった。そこで勇気を出して話しかけておけば。
　その瞬間は決して戻ってこない。想いが残り続ける。

　「あれ!?」と思うような意外な時、場所で、意外な人に会うことは、それからもある。しかし、まったく予想もしない「こんなところでこの人に会うはずはない！」というような「再会」はない。今度そのような再会があったならば、決して躊躇はしない。

<2001/12/13記述>